意味ありげな生を求めて

あるかわからない人生の意味を、文学の森で探す手書きの地図

海も暮れきる「咳をしてもひとり。とキャッチコピーの違い」

尾崎放哉といわれてもピンとこなくても、「咳をしてもひとり」の自由律俳句は知っているという人は多いのではないか。 代表作に数えられるその句は、結核になった尾崎放哉が晩年、小豆島のお遍路の札所で庵主をやっているとき、文字通り血を吐きながら書かれ…

スローなブギにしてくれ(片岡義男)「ただそれだけの話」

捨て猫を拾う女が、道路上で男に捨てられて、それを拾ったバイクの男が女を拾い、猫と一緒に連れ帰る。そして、猫を拾ったり、捨てたり、くっついたり、離れたりする。 ただそれだけの話だ。 最低限の描写で、あっさり読める短編だが、残る印象は鮮やかだ。 …

山月記(中島敦)「我流で孤高を貫こうとする人たちへ」  

文学を志すような人間には、人と積極的に交わる人もいるが、多くは人と交わらず、教わることをよしとせず、我流で傑作をものにしようと、社会に出てからも文学中心の孤独な人生を歩む。そして、その大半が何年たってもよい作品をものにできず、現実を知り、…

麻雀放浪記(阿佐田哲也)「残金が百円でもそれはプロセスに過ぎない」

現代においてさほど競技人口が多いとも思えない「麻雀」を題材にした娯楽小説なのに、人生観にまで影響を与えるほどの作品で、いちばん好きな小説はなにか、と問われれば、迷わずいちばんに推す候補になるほどの小説だ。作者の安佐田哲也は、本名の「色川武…

百年の孤独(ガルシア・マルケス)「生涯残る読書体験」

コロンビアのノーベル賞作家、ガルシア・マルケスの代表作にして、世界文学とくに欧米以外の文学のなかでは、間違いなく歴代一位の候補のひとつに挙げられる小説だ。多くの人が、欧米以外の文学作品、というと、この小説を口にすることになる。そしてじっさ…

存在の耐えられない軽さ(ミラン・クンデラ)「軽さは重さより劣るのか」

「存在の耐えられない軽さ」は、日本語のタイトルが素晴らしくよい。 このタイトルと、チェコ出身の作家「ミラン・クンデラ」の名前だけで、ひとつの作品であると言ってしまってもいいくらいだ。 正直、本の中身はほとんど覚えていないが、タイトルが醸し出…

グレート・ギャツビー(スコット・フィッツジェラルド)「疑いなく至上最高の小説のひとつ」

この小説を小説家の村上春樹さんが第1位に位置づけているのは有名だが、「グレート・ギャツビー」をどう評価するかということが、「小説を読める」ことについてのひとつの指標になるかもしれない。 村上春樹さんは代表作「ノルウェイの森」の登場人物に「グ…

東北の神武たち(深沢七郎)「貧村の口臭がひどすぎる童貞が主人公の小説とは」

深沢七郎さんという作家は、一般的には人気がある部類とはいえないが、姥捨ての話を書いた「楢山節考」は映画にもなってよく知られている。 その「楢山節考」も、「東北の神武たち」も、深沢七郎さんのそのほかの著作も、たいてい貧しい庶民が主人公で、一般…

八千メートルの上と下(ヘルマン・ブール)「もしそれがなかったとしたら」

著者のヘルマン・ブールさんは登山家で、世界で14座ある8000メートル峰のうち、ナンガ・パルバットという通称「魔の山」に初登頂した、超人的な伝説の人だ。その登頂記が「八千メートルの上と下」だ。 登山に興味のない人は、読もうと思わないかもしれ…

さようなら窓(東直子)「文学は、模写すればそっくり同じものが書けるとしても」

作者の東直子さんは、短歌を書く歌人だ。 その作品をいくつか目にしたことがあるが、自分の感覚にないリズム感や言い回しがでてくることが多くて、はっとさせられることがある。 文学というのは、音楽や美術と違って、文字を一言一句なぞいっていくと、どん…

KAGEROU(齋藤智裕)「文学を志す勇気を与えてくれる本」

前回、又吉直樹さんの「東京百景」で触れたので、ほんとうは素晴らしい本のことしか書きたくないが、あえてこの本にも触れておく。この本は、元人気俳優さんが書いたもので、芸名を隠して本名でP社の賞に応募した体で大賞をとり、その後、本人だとわかった…

東京百景(又吉直樹)「感動的とさえ言えるマスターピース」

いちばん最近読んだ、最近出た本だ。著者の又吉直樹さんは芸人で、芥川賞作家。 十数年、部屋にテレビのない生活をしているので、正直、又吉さんの芸人としての側面には疎い。 そして、現時点で、又吉さんの芥川賞受賞作「火花」(ずっと花火だと誤認してい…